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中国から「脱出」し始めた中国人富裕層
2011年11月24日(木)石 平

中国は今、世界最大の「移民輸出国」なっている。中国社会科学院が公布したデータによると、中国はこれまでに約4500万人を世界に送り出しているという。

中国人の6割が移民を考えている

4500万人といえば、中国の総人口の3%程度なのでたいしたことではないと思われるかもしれないが、問題は、一体どのような中国人が海外へ移民しているのかである。

今年10月、胡潤(フーゲワーフ)研究院という民間研究機関と中国銀行が公表した「中国個人資産管理白書」によると、中国の富裕層の14%がすでに移民手続きを完了あるいは申請中で、46%が移民を考慮しているという。

両方を合わせて、ちょうど富裕層の6割が既に移民しているのか、あるいは移民志向であることが分かる。今年4月に米コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーと中国の招商銀行が共同で発表した「2011年中国個人資産白書」でも、富裕層の27%が移民手続きを完了し、47%が考慮中である、というデータが出ている。

「華僑」とどう違うのか?

実はこのような事態は、中国史上初めてのことであるといえよう。確かに、中国という国は昔から海外へ移民する伝統がある。日本でも戦前から大量の「華僑」がやってきて住み着いているように、世界各地に「華僑」の足跡が広がっていることは昔ながらの光景である。

しかし、海外へ移民した当時の「華僑」の大半は国内における貧困層だった。災害や飢饉の発生により、地元に留まってはもうどうにもならない貧乏人たちがやむを得ず故郷を捨てて海外へ流れていったというのが歴史上の典型的華僑像なのである。

そうした意味で、現在の中国で起きている「移民ブーム」は歴史上のそれとはまったく異なっている。移民している人の数が総人口の数%であるのに対し、国内の富裕層だけはその6割の人々が移民しているか、移民志向であることは前述の通りである。

アメリカ・シンガポールで土地を買い漁る

富裕層の移民は当然、国内で蓄積されている多くの富が彼らとともに海外へ流失することを意味する。

たとえば、移民先として中国の富裕層に一番人気のあるアメリカの場合、まさに各国からの富裕層移民をダーケットにした「投資移民」を受け入れる制度がある。それは米国への投資によるグリーンカード(EB-5投資永住権)取得制度で、米国に50万ドル以上投資すれば移民の申請が可能となる仕組みである。

そして米移民局が最近発表したデータでは、中国人によるEB-5申請者は、2007年の270人(うち承認人数161人)から11年には2969人(同939人)へと急増したという。しかも、今年の中国人申請者は各国からの申請者全体の約4分の3を占めているのである。

中国からの投資移民がアメリカで行う投資の主な項目はやはり不動産投資である。今年11月3日付の「楊子晩報」の掲載記事によると、2010年4月から11年3月までの1年間、中国人がアメリカ全国で実は2万3000軒の不動産を購入したという。

この数字には、投資移民となった以外の中国人が不動産を購入した軒数も含まれているだろうし、おそらく、これから移民になろうと考えている人々の多くもその中に含まれているのではないかと思う。

ちなみに、中国で人気のある移民先の一つとなっているシンガポールでも、中国人が不動産を買い漁る現象が起きている。11月19日付の北京の有力紙である「新京報」は、過去15カ月間、シンガポール国内の高級住宅の約3割が中国人によって買われてしまったと伝えている。中国人富裕層の海外個人投資はまったく凄まじいものである。

海外への「大逃亡」はなぜ起こるのか?

このように、中国の富裕層はその個人財産を持ち逃げするような形で競って海外へ「大逃亡」しているが、それは一体なぜなのだろうか。

海外への移民ブームがとくに顕著となった原因の一つは、やはり今年に入ってから中国経済が徐々に傾いてしまい、「不動産バブル」が崩壊しかけていることにあろう。

国内の事情に明るい富裕層の人々が情勢の悪化を敏感に察知し、沈もうとする船から一斉に逃げ出そうとしているわけである。

それはまた当然の成り行きでもあるが、近年の移民ブームの原因はそれだけではない。

中国の富裕層が移民したがる深層的な理由について、2010年11月10日付の中国国内紙『経済参考報』は示唆に富む記事を出している。

記事はまず、エリートや富裕層による「移民ブーム」が起きていることを指摘した上で、その理由を探るべく、当事者たちに取材を行っている。

そして、中国国内の環境汚染や食品・医薬品の安全問題、公共サービスの悪さや社会的不平等、法体制の不整備と権力の横暴を原因とする「不安感」や投資・ビジネス環境の悪化などが、多くの人々を海外移住へと駆り立てた諸要因となっていると指摘しているのである。

言ってみれば、中国の自然・社会・政治・経済環境の全体、すなわち「中国」そのものに対する中国人自身の嫌気と不信感こそが、現在の移民ブームを引き起こす要因となっている、ということである。

「足」を使って「投票」する中国人

10年10月に発売された「英才」という月刊誌では、北京師範大学金融研究センターの鐘偉教授が論文を寄稿して同じ問題を取り上げているが、鐘教授はここで、「足による投票」という面白い造語を使って今の移民ブームの本質を説明している。

民主主義国家では、選挙のとき、人々は両手を使って投票用紙に何かを記入して投票箱にいれ、それをもって自らの政治意思を表明するのだが、中国ではそんなことができない。

そうすると、人々は「手」ではなく「足」を使って「投票」してしまう。つまり足を動かして中国から逃げることによって、この国の現状に対する自分たちの認識や未来への見通しを示しているのである。

要するに中国の多くのエリートたちは、この国の未来に見切りをつけて中国からの「大逃亡」を実行している。そのことはまた、中国という国の危うさを十分に示しているだろう。

今でも「バラ色の中国の未来」に望みをかけて中国進出を試みようとする日本の企業や人々は、こうした動きの意味を考える必要があるだろう。




◆本連載について
めまぐるしい変貌を遂げる中国。日々さまざまなニュースが飛び込んできますが、そのニュースをどう捉え、どう見ておくべきかを、新進気鋭のジャーナリスト や研究者がリアルタイムで提示します。政治・経済・軍事・社会問題・文化などあらゆる視点から、リレー形式で展開する中国時評です。
◆執筆者
富坂聰氏、石平氏、有本香氏(以上3名はジャーナリスト)
城山英巳氏(時事通信中国総局記者)、平野聡氏(東京大学准教授)
森保裕氏(共同通信論説委員兼編集委員)、岡本隆司氏(京都府立大学准教授)
三宅康之氏(関西学院大学教授)、阿古智子氏(早稲田大学准教授)



by cosmic_tree | 2011-12-07 07:54 | うっとおしい中国・北朝鮮 | Trackback
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